言語文化研究部門の研究紹介
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五感で学ぶ歴史や文化の面白さ
2023年11月30日研究紹介
人やものとの出会いから研究者の道へ
須藤先生は、日本中近世史・日本美術史・博物館学がご専門でいらっしゃいます。これからの研究分野に関心を持ったきっかけを教えてください。
歴史に関心を持ったのは小学4年生のときにNHKの大河ドラマを観てからですね。司馬遼太郎原作の『国盗り物語』。斎藤道三と織田信長、明智光秀の生き様を描いたストーリーから躍動感ある戦国時代に魅力を感じるようになって。そこから戦国武将を主役にした学習漫画や伝記などを読むようになりました。
夏休みのような長期休暇には祖父母の住む山梨県へ帰省するのですが、その度ごとに県内にある武田氏の有名な史跡を巡っていったんです。武田信玄の墓所であるとか、躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)の跡地とか、あるいは氏神である武田八幡神社のようなところですね。
それで高校生のときに、信玄堤(しんげんづつみ)の近くにある慈照寺を訪れたら、高校の先生でもあった住職が「それほど歴史が好きなら......」と古文書を見せてくれたんです。しかも「檀家さんの一人が早稲田大学で武田氏の研究をしているから紹介してあげよう」という話になって。うれしかったですね。まだ高校生でしたが、そこから武田氏の古文書調査に連れて行ってもらうようになったんです。
研究を始められる出発点にそんなご縁があったんですね。
運も良かったんですよ。当然、大学の先生ですからお忙しいでしょうし、ご住職の紹介とはいえ、一介の高校生は相手にしてもらえないのが普通でしょう。ご住職や先生との出会いが自分の道を決定づけたような気がします。
「人と人」「人ともの」の出会いというのは、研究者だったら誰もが実感していると思います。そういうことがあるんですよ。人生のどこかでその道に入るきっかけがある。どんなに勉強ができたとしても、研究者になるとは限りませんが、そういう出会いを経験している人は、研究者になることが多いのではないでしょうか。
歴史を学ぶことで見えてくるもの
阿波を題材にした近世美術史についての研究は徳島に来られてからですか。
そうです。山梨県の歴史博物館 信玄公宝博物館の学芸員をしていたのですが、ひょんなことから徳島市に新設される博物館(徳島市立徳島城博物館)で働いてみないかというお話をいただいて。若いうちに博物館を一から立ち上げる経験は、やりたくてもチャンスが巡ってこないとできるものではありません。長男でしたし、武田氏の研究者でしたから、関東から離れるかどうかは悩みましたが、最終的には父から背中を押されたこともあり、徳島行きを決めました。四国大学で教えるようになったのは、徳島市立徳島城博物館に21年勤めた後のこと。真鍋俊照先生にお声がけいただいたんです。こちらも人の縁ですね。
地域の歴史を学んでいく魅力と意義について教えてください。
たとえば、国宝や重要文化財が最上で、県や市の指定した文化財はそれよりも一段低く見られる風潮があります。確かに前者は全国的に見て貴重なものですが、後者はその地域にとって欠くことのできない重要な存在です。既存の価値や概念だけでは測れないものを見せていくのが、それぞれの地方にある博物館の使命の一つ。その土地の歴史や独特の文化に光を当てるには、しっかり学んで研究していくしかないんです。徳島でいえば、僕が研究を始めた頃は、三好長慶や蜂須賀氏について、ほぼ話題に上ることはありませんでした。徳島城博物館ができたからこそ、多くの人がその存在を知るようになったんです。
「歴史なんて過去の出来事だから、そんなものを学んでも仕方がない」という意見を聞くことがありますが、それは大きな間違いです。大学でどんな学問を学ぶにしろ、その学問の成り立ちや現在に至るまでの流れは必ず知らなければなりません。経済だったら経済史や経営史がありますし、法律だったら法制史という歴史を学ぶわけです。
人間は過去に学ぶことで、失敗を繰り返さなようにしてきました。つまり、現在の自分たちがきちんと現在を生き、未来へとつないでいくためのものなんです。テストで悪い点数を取って、不合格になったら、次は良い点数を取って合格しようと思うでしょう。誰もが過去に学んでいます。それを意識できるかどうかの違いにすぎないんですよ。
本物に触れることが理解を深めていく
須藤先生は「自分の目で本物を見ること」を大切にされています。講義でもご自身が所蔵されている貴重な歴史史料を用いられていますよね。
今はインターネットで何でも見ることができます。コロナ禍の影響もあり、全国各地の博物館や美術館でデジタル・ミュージアムのような取り組みも進んできました。テクノロジーの発達によって、現地に行かずして高精細の映像で対象を確認できる世の中ですよね。
しかし、どんなに美しい映像でも、本物には敵わない点がいくつかあります。一つは「サイズ」ですね。小さな茶碗であろうと、大きな屏風であろうと、画面に収まるサイズに縮小されて表示されてしまう。もちろん、サイズの表記はありますが、それでリアルに想像できる人は限られています。拡大できる機能があっても部分的にしか大きくできません。
それから、3Dのデジタルモデルでもない限り、正面以外の角度から眺めることも不可能でしょう。博物館であれば、ガラスケースの中かもしれませんが、全体が見えた方が良いものは、必ずそうした展示がされています。色や質感もデジタルに変換されたデータでは、どうしても五感で学ぶことが難しい。だからこそ、博物館へ足を運んでほしいと思いますし、自分の講義では、できるだけ本物の作品や史料を間近で感じられるように心がけています。
オープンキャンパスなどで古文書や掛け軸などを用意すると、高校生やその親御さんも興味を示してくれますね。私が所蔵しているものは触れてもらったりもしています。たとえば書状一つとっても、町人と大名のものでは紙そのものの質や厚みが全然違う。これは本物でないとわからないんですよ。実際に触れてもらうことで理解の度合いも変わります。
最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
大学へ進むということは、単なる勉強を超えて研究になる学問をするということです。まず自分がやりたいものを見つけてください。専門性を突き詰める過程で方法論を学び、社会に出たら自分の人生で生かしていく。世界に目を向けるのも大切ですが、地域の歴史や文化を知ることも意識してほしいと思います。四国大学の日本文学科は、文学とともに、総合的に日本の歴史と文化が学べる環境です。特に博物館学芸員を目指すのであれば、とても充実した経験ができるでしょう。