人間生活科学研究部門の研究紹介
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学生たちと創造する徳島の新しい『食』
2023年11月30日研究紹介
廃棄される農産物に加工で付加価値を
短期大学食品開発研究会は、地域の企業や農家の方々との連携により、新商品の開発を行っていらっしゃいます。こうした活動を始められたきっかけを教えてください。
西堀(代表):徳島は農産物の評価が高い一方、その加工品は県外の工場へ生産委託しているケースが多いんです。そこで授業の一環として規格外のB品などを活用した農産物の加工を実施し、商品化から宣伝、販売までを学生たちと一緒に考えるプロジェクトを進めています。大学生ならではのアイディアや目線を大切にしつつ、いくつかの商品化に成功しました。
坂本:四国各県を比較するデータで見ていくと、徳島は高知や香川と同じ人口減少に直面している農業立県であることがわかります。しかし、徳島は高知と異なり、農業立県である事実を観光業にまったく生かしきれていません。さらにいえば、食料品の出荷額は香川の半分程度ですから、農産物の加工に関しても遠く及ばないという現実があります。そこには地理的要因、ブランドイメージなどいろいろな要因があるとは思いますが、食品製造業の競争力が著しく低いんですね。
徳島土産の製品表示を見ると、確かに県外で生産されたものが多いように思います。
西堀(代表):そういう現状を変えていきたいという思いがあって、2019年頃から人間健康科の食物栄養専攻でプロジェクトがスタートしたんです。地域の農家さんや企業さんと協力・連携して、学生の発想でヒットする商品ができれば、廃棄される規格外のB品も減るし、徳島の食品製造業も強くなる。結果的に就職先が増えれば、人口流出も防ぐことができますから。
坂本:私はマレーシアで水産会社とトロピカルフルーツを扱う会社を経営していたのですが、新たな市場で馴染みのない食品であっても、加工方法やパッケージングを工夫すれば、少しずつ売れるようになる経験をしました。徳島の農産物は品質が高いため、そのままでも利益が出ていたと思いますが、これからは加工品で付加価値をいかにつけていくかを考えるべき時代です。私たちが地域のコーディネートを担うことで実現していきたいですね。
今までになかった新製品を生み出したい
後藤先生と三木先生は、このチームでどのような役割を担っていらっしゃるのですか。
後藤:アイディアの段階から学生たちと一緒になって取り組み、どうしたら製品になるかを考えながら試作をしています。最初は海陽町の提携先農家である山上ファームさんの「濃紅(こく)みつキャロット」を原料にしたポタージュでした。有機肥料100%で栽培された人参はとても甘く、規格外だからといって捨ててしまうには惜しい野菜です。そういうB品を生かしたいという思いが出発点になりますね。
三木:私も後藤先生と同じく、製品化を担当しています。私の方では、学生の卒業研究として、丸浅苑さん、吉野川市のNPO法人れんこん研究会さんと一緒に「れんこん薬膳粥」と「れんこんカレー」を共同で開発しました。コウノトリの野生復帰に配慮した農法によって鳴門市で栽培された「コウノトリおもてなしれんこん」の有効利用を目指した製品です。健康とおいしさにこだわり、いろいろ材料の組み合わせなどを試しながら開発を進めていきました。
製品化において記憶に残っているエピソードを教えてください。
後藤:製品化は大変でした。熱々を食べるとおいしいポタージュも、レトルトとしてつくるのは別物で、風味やとろみ具合などを調整するのが難しかったですね。完成後は幕張メッセで開催された国際食品・飲料展『FOODEX JAPAN 2019』へ出展。山上ファームさんのブースで学生とPRに参加しました。JALの会員誌へ掲載されるなど、一定の成果は出たのではないかと考えています。
さらに一歩進めて、人参嫌いの子でも食べられるようにと考え出されたのが「きゃろめるばたぁ」と「きゃろめるばたぁ びたぁ」です。こちらは株式会社岡萬本舗さんに商品化いただきました。生クリームやバター、阿波和三盆糖などを絶妙なバランスで配合した味が評価され、一般社団法人日本野菜ソムリエ協会主催の『第1回 パンのおとも選手権』で「ベストスウィート賞」を受賞しています。
三木:「れんこん薬膳粥」と「れんこんカレー」も、最終的な形になるまでは大変でしたね。徳島の食材を使うというコンセプトは良いのですが、何をどれだけ使うかという材料の選択と組み合わせには時間がかかりました。コストや栄養価の問題もありますし、健康にフォーカスするのであれば、カロリーの面も考えなければいけません。合成着色料や保存料、甘味料や化学調味料を使わずに、多くの方に喜んでもらえる味わいを目指すわけです。チャレンジした学生たちにとっても良い経験になったのではないでしょうか。
柔軟な発想と果敢な挑戦が拓く道
この取り組みを進める上で、課題になっているのはどんなことでしょう。
三木:こちらとしては学生に「若者目線の奇抜なアイディア」を期待しているのですが、やっぱりそれは難しいんですよね。売れるもの、おいしいものを前提にすると、どこかで見たような製品になってしまう。どう発想を引き出していくかという点は、私たち教える側の課題かもしれません。
後藤:そうですね。確かに製品の種となるアイディアに関しては頭の痛いところです。ほかに課題といえば、短期大学部のため、上級生と下級生の連携が難しい点でしょうか。2年間という短い時間では、上級生たちが卒業研究で製品化を頑張っている姿を下級生が見る機会がありません。結果的に年度が変わるとゼロからのスタートになる点は何とかしたいですね。もちろん、今までの卒業生がイベントへ参加した際の写真や製品の現物は見せられるので、成功体験のシミュレーションはできているとは思うのですが......。
西堀(代表):アイディアの段階だったら、むしろ突飛なもので構わないんですよ。実現できるかどうかは二の次で、まず自分たちが「これはいい!」「おいしそう!」と思うものを出してきてほしいんですね。そこをどうやって形にするかは一緒に考えればいいことですから。
坂本:最初にも言いましたが、徳島は高知や香川と比べると、農業立県であるにも関わらず、観光業や食品製造業との連携ができていません。しかし、着眼点を変えてみると、それはブルーオーシャンが広がっているということです。ちなみに先ほど紹介したマレーシアの会社の名称はブルーオーシャン株式会社でした(笑)。どうにかしたいと考えている農家さんや地域の企業も潜在的には多いはず。そこをつないでいくのも課題の一つですね。
最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
西堀(代表):徳島に興味を持ってほしいですね。スタートはそこからなんです。いろいろな側面を知ることで、地域の本当の良さが見えてくる。もちろん、その中には課題や問題もあると思いますが、それらを農産物や加工食品の観点から、どうやって解決できるだろうと考えてみてほしいと思います。食品の機能性など、まだまだ可能性は広がっていくはずです。
坂本:西堀先生のおっしゃるとおり、徳島は可能性の塊だと思います。やる気とアイディアさえあれば、人間健康科の食物栄養専攻は、何でもチャレンジできる場所。おいしい料理をつくることから始まって、パッケージングやマーケティングまで学ぶことができます。
後藤:立派な建物って後世まで残るじゃないですか。料理も同じような可能性があると思うんです。「こんなこと言ったら笑われるかも......」というアイディアをどんどん出して、トライしてみてほしい。それが形になったら、世の中が変わるかもしれませんし。
三木:おとなしくしているだけではもったいない!いろんなことに興味を持って、そこから柔軟な発想を出していってほしいですね。たとえば「大好きなおじいちゃんの血圧を下げる料理はできないかな......」みたいに、きっかけは何でもいいんです。最初の一歩は意外とそういうもの。私たちと一緒に、商品化から宣伝、販売まで楽しみながら挑戦してみてほしいですね。