新あわ学研究部門の研究紹介
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文学を軸に人間的な成長を促す
2023年11月30日研究紹介
小説家が教える創作と徳島文学の魅力
佐々木先生のご専門は、日本の近現代文学と国語教育の研究や小説の書き方、大学の地域貢献や生涯学習、徳島における文芸文化の研究とのことですが、この研究分野に関心を持ったきっかけを教えてください。
日本の近現代文学は学生時代からの研究テーマですが、小説の書き方を講義で教えているのはユニークに見えるかもしれません。私自身が小説家でもあるため、小説の実作法、つまり、創作が教育へどのように落とし込んでいけるかも研究しています。
もともと私は生涯学習センターで小説のノウハウを教える講座を持っていたんです。そこに地元の小説好きな方がたくさん集まってくれて。これだけ創作に興味がある人がいるのならば、大学としての地域貢献、地元の活性化につながるんじゃないかと考えました。
徳島には、北條民雄や富士正晴、瀬戸内寂聴など、素晴らしい作家が数多くいます。こうした方々の存在や著作を全国に向けて発信していく。それも自分の役割の一つだと思っています。
郷土の作家については、確かに知る機会が少ないかもしれません。具体的にどのような活動を展開されているのでしょうか。
たとえば、2023年で4回目を迎える『四国大学 富士正晴全国高校生文学賞』もその一つです。この文学賞は2009年から約10年間、彼の出身地である三好市で行われていた『文芸誌甲子園』をベースに、富士正晴の顕彰活動を発展的に継承する目的で創設されました。郷土の文学・作家を広く知ってもらう意味からも、意義のあるものだと考えています。
https://www.shikoku-u.ac.jp/docs/20230712fujimasaharu04.pdf
富士正晴は、戦争から復員後、1947年に仲間たちと現在も続く文芸同人詞『VIKING』を創刊したことでも知られている人物です。アマチュアの文芸復興に力を注いだ人でもあり、全国各地にある高校の文芸部誌で応募してもらう文芸賞は、彼の遺志にも叶うのではないでしょうか。2022年の第3回は審査対象作品244篇。年を重ねるごとに応募も増えており、全体的にクオリティーも上がってきていると感じています。
場をつくることで地域の文芸文化を振興
その一方で、徳島文学協会の設立をはじめ、文芸誌『徳島文學』の刊行や徳島新聞『阿波しらさぎ文学賞』の創設など、現在進行形で新たな才能の発掘にも尽力されています。
一言でいうと「地域の文芸文化振興」に貢献できればとの思いです。1960年代から1970年代くらいまでは徳島でもプロフェッショナルの書き手が複数いましたが、1980年代から中央と地方の文壇に大きな溝ができてしまったんです。作家としての才能があっても、指導も受けられなければ、発表するところもないため、文学賞を受賞できるような人が出てこなくなってしまった。その結果、さらに文芸文化が衰退してしまうわけです。
そこを解決するには、やはり場をつくったり、目標がなければいけません。自分と同じように小説を書く仲間がいて、掲載される文芸誌があって、目指すべき文学賞がある。その三点がそろえば、きっと徳島の文芸文化は盛り上がる。大学の講義や出張授業などで小説の書き方を教えているのも、種をまくようなものだと考えています。
2011年に四国大学に赴任されており約10年強が経ちましたが、大学における研究や教育を軸にした"地域の文芸文化の振興"の手応えはいかがでしょうか。
年ごとに手応えを感じるようになりました。『三田文学新人賞』や『林芙美子賞』のような全国レベルの文学賞の受賞者も出てくるようになりましたし、『阿波しらさぎ文学賞』も、第1回から第6回まで、全国からの応募総数はずっと400点以上をキープしています。
どの活動も「狭い地域に特化したものにしない」という点が重要なんです。特定の地域だけで消費される視野の狭い自己満足で終わってはいけません。徳島から全国へ発信していく姿勢と強度を保たなければ、総合力の高い作品はできないでしょう。
『徳島文學』も2023年で6号目になりましたが、県内の書き手だけにとどまらず、全国で活躍する魅力的な作家に執筆を依頼するようにしています。その甲斐あって、東京の文壇にも存在が認知されていますし、日本中から注文が入るまでに成長しました。
自分の心をかき立てるものを探して
文学と音楽のコラボレーションなども数多く開催されています。こちらはどのような意図があるのでしょうか。
小説に登場する音楽の解説と実際の演奏を楽しんでもらうなど、いろいろな形で総合芸術イベントを行うようにしています。私にとって、音楽や絵画、文学はすべて芸術の一分野であり、同じフォールドにあるもの。だから、異なるジャンルの芸術を融合させることで、新たな相乗効果が生まれるのではないかと考えています。
たとえば、2022年に開催した徳島市立図書館移転10周年記念イベント『月と文学と音楽と』もその一つです。ここでは、萩原朔太郎の詩の朗読とエリック・サティの楽曲のピアノ演奏に、幻想的な月の映像を合わせてみました。実は30年以上前からひそかに温めてきたアイディアだったのですが、想像した以上に素晴らしいマリアージュでしたね。
こうした試みは、文学にしか興味のなかった人が音楽を好きになったりするように、違う分野の芸術への入り口になりうると思うんです。それは必ずしも文学でなくてもいい。心に響く芸術に触れるきっかけが増えれば、自然と地域全体の文化への関心が高まっていくでしょう。文化レベルの向上によって、さらに徳島は魅力的になっていくと思います。
最後に、読者の方々へメッセージをお願いします。
「小説を書く」というのは、いわば「世界をつくる営み」です。登場人物は作者の書いた作品の中で、それぞれの人生を生きていくことになります。つまり、書き手は一人ひとりのキャラクターの人生に責任を持たなければなりません。そうしなければ、内容が軽薄になってしまい、読者の心に響くようなものは書けないんです。
ある種、厳粛なものですから、書き手は必然的に、様々なことに対して誠実に考えることを余儀なくされる。それを学生のうちに体験すると、やはり意識が変わるんですよ。世間知らずだったり、斜に構えていたような子も目に見えて成長していく。幼い感情だけでは書けないんです。
授業の中で学びながら、失敗を恐れず、どんどんチャレンジしてほしいと思います。たとえ文学に関係なくても、何かに興味・関心が出てきたら、それは最大のチャンス。自分の心をかき立てるものが何か。問い続けることで、あなたの世界は広がっていくはずです。